2020/07/01

K値を厳密に取扱う

K値を厳密に取扱う

Exact K-value expression based on the logistic function

(As of July 1st, 2020)

SIモデルのロジスティック関数を用いて,K値をより厳密に取り扱ってみます。いうまでもなく,K値は特定のモデルや関数形を前提としたものではありません。

先のブログ"K値は実効再生産数の見積もりに役立ちます"より
   N = P/{1+exp[-r(t-T)]}                    1)
   m = r /{1+exp[r(t-T)]}                     4)
です。記号については,先のブログのとおりです。

1つのロジスティック関数で表される感染のプロファイルについて,ある日i の日感染者数Di Ni-Ni-1です(Ni はその日の累計感染者数です)。Di /Ni を日毎の増加率 m として定義し,4)式を導きました。r は内的自然増加率とよばれ,1個体がとりうる最大の増加率,tT は時刻を表しています。以上は補足です[7月8日]。

K値は 1-Ni-7/Ni なので,これに1)式を代入すると
   K= 1-{1+exp[-r(t-T)]}/({1+exp[-r(t-T-7)]}
    = 1-{exp(-7r)+exp[r(t-T-7)}/{1+exp[r(t-T-7)]}
exp(-7r) にマクローリン展開を適用すると,
   K = 1-{[1-7r+(7r)2/2 - (7r)3/6 + ...]+exp[r(t-T-7)}/{1+exp[r(t-T-7)]}
     = 1-{1+exp[r(t-T-7)]+[r-(7r)2/2 + (7r)3/6 - ...]}/{1+exp[r(t-T-7)]}
よって
   K = [7r-(7r)2/2+(7r)3/6- ...]/{1+exp[r(t-T-7)]}      5)
これが厳密な表現です。

7r 1程度で,このように小さいときには2次以降の項を省略して次式が得られます。
   K = 7r /{1+exp[r(t-T-7)]}                    6)
なお,5)式の[7r-(7r)2/2+(7r)3/6- ...]は定数なので,5式と6)式は関数形が全く同じです。

6)式は,m値の4)式を7倍したτm値(τ=7)の式を,時間原点を移動させたものです。時間原点の移動は時間の遅れを意味し,先のブログの図1にもその様子が表れています。この性質は,7日前の日感染者数を累計数で除しているK値の定義からも本質的なものです。

指標としての特性


時間の遅れは,感染の急速な増大期には欠点でしょう。なぜならば,COVID-19パンデミックでは感染数が2日間程度で倍,倍と,1週間で4倍以上に,急速に拡大しているためです。また,感染が顕在化するのに少なくとも数日,さらにそれらが感染数として報告されるには数日,これらを合わせると少なくとも1週間を要するからです。このようなデータを解析した値が7日前の挙動を示しているならば,感染から2週間程度の遅れの結果を意味してしまいます。

一方,感染の収束期には,緩やかに感染者数が減少するので,この欠点はあまり問題になりません。むしろ,1週間の移動平均に相当することから,データのばらつきを低減できるので,指標としては有益です。また,感染プロファイルが継続的な場合,その傾向の変化を把握するうえでも役立ちます。大事なことは,K値の特性をよく把握して活用することです。

先のブログで述べたτm値は過去のデータをすべて反映していて,この値からの偏差には時間の遅れは現れません。また,m7値は,ある日とその前後3日間の日感染者数/累計数の7日間移動平均なので,時間の遅れは平均としては小さいものです。最新の日は当日の値,その1日前は3日間移動平均値,2日前は5日間移動平均値とせざるを得ず,ばらつきは大きくなります。これら数値は,感染可能期間τ値が7日間の場合の実効再生産数に対応しています。
 

日感染者数のデータの発表について


感染数の公表に要する時間は,現在では長すぎます。東京都では,報告数を日単位にまとめた報道発表と,確定日別の日感染者数を別に公表しています。前者は都に報告された数の取りまとめをその日付の数としての発表で,報告自体が数日遅れだったり,数日分をまとめた集計の報告だったりと,統計的な精密さを欠きます。後者はより感染日に近いもので,データ処理の結果も感染モデルとの合致が良好で,時刻パラメータが1日半ほど早くなります。後者はそれでも実際に感染が疑われた日から3-4日後の公表です。

陽性が確定した場合の日時(あるいは検査の着手日時にさかのぼって)がリアルタイムに公表されるならば,感染の推移の解析に役立ちます。もしかしたら,"専門家"にはそのような情報が提供されているのでしょうか?

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