COVID-19 茨城県の感染者数プロファイルの解析
[9月21日]
Profile analyses of COVID-19 affected numbers in Ibaraki Pref. [September 21st, 2020]
茨城県の新型コロナウイルス感染症の感染者数のプロファイルをロジスティック関数への最適化により解析しました。使用したデータは,茨城県が公表している「新型コロナウイルス感染症陽性者一覧」で,最新の9月21日までの累計感染者数です。
茨城県の人口は約289万人で,累計感染者数は627名なので,10万人当たりの感染者数(罹患率)は21.5人です。この値は,東京都の173人の1/8,埼玉県,千葉県や全国と比べても1/3と小さい。致死率(感染者数に対する死亡者数: これまでで16名)は2.6%で,最新の東京都の値1.6%,全国の値1.9%に比べるとやや高めですが,とくにきわだった値ではありません。全国的には第2波の致死率は0.7%程度に低下しているので,茨城県の最近の致死率も低くなっているはずです(50歳以下の致死率と重症化の割合は極めて低い)。
本ブログでの解析については,"COVID-19 感染者数プロファイルの計算モデルと見方"を参照ください。CompartmentモデルのSIRDモデルへの対応付けについては"COVID-19 感染者数プロファイルの概形"をご覧ください。
図1に, 累計の感染者数(累計obs')と解析で得られたその計算値(累計calc')を示します。これらは最新の累計の感染者数(最大値)で除して,規格化しています。日別の感染者数(日別obs),その7日間移動平均値(日別ave),累計の計算値から得られる日別の感染者数の計算値(日別calc)をプロットしてあります。
感染者数は整数値で,茨城県の場合は数が小さいため,極めて離散的です。計算値は実数で,連続的なので,一見すると日別感染者数とその計算値の一致が良くないように見えますが,前者が離散的なことに対応しています(1目盛りが1人です)。日別aveは,週内の報告数の変動(土日曜日,休日とその直後は数が少ない)を和らげていて,また実数となるので,計算値との一致度は良くなっています。
茨城県の場合は感染者数が少ないこともあり,小規模のクラスターの発生があると日別感染者数は目立って大きくなります。例えば,4月1日の近傍の大きな数は,神栖市やつくば市などのクラスターによるものです。また,7月24日頃の数はそのころの連休日による報告数の減少を表し,その後の週は連休後の診断数の増加を反映しています。このブログで述べている解析では,累計数の経時変化みを用いているので,減少と増加があっても相殺する場合は結果にはあまり影響しません。
4月上旬の第1波の解析では,環境収容力(そのプロファイル全体の感染者数)は168で,正確に報告数と合致しています。変曲点(日別感染者数のピーク)は4月8日,基本再生産数の相当値(1人の感染者が引き起こす新たな感染者の数の目安)は2.2です。変曲点は他の都道府県よりも1週間ほど早くなっています(これは先述のクラスターが解析に影響しています)。茨城県の最初の感染者は3月17日で,他の都道府県に比べて遅かったのですが,第1波の収束は5月の連休のうちで,早いものでした。これはやや大きな基本再生産数相当値と関連しています。
第2波は,変曲点が8月6日,環境収容力が378,基本再生産数1.7のプロファイルが主たるものです。これに,変曲点が9月8日,環境収容力が108の小さなプロファイルを加え,これを"第2+β波"として解析しました。この第2+β波は,現時点では報告数が少なくて誤差が大きいので,基本再生産数相当値は東京都の値1.8を用いたものです。なお,これまで示してきた"τ×平均"のプロットを図1では省略しました。茨城県の場合も"τ×平均"は"τ×増加率"を追随していますが,報告数が少ないためにばらつきが大きく,図が込み合ってくるためです。
図1. 茨城県の感染者数と最適化による計算値 [図をクリックすると拡大] |
Data source: 茨城県が公表している「新型コロナウイルス感染症陽性者一覧」 https://www.pref.ibaraki.jp/1saigai/2019-ncov/ichiran.html
図2. 茨城県の累計感染者数と感染者数プロファイル |
第2+β波は,第2波のピークの近傍から現れだしましたが,第2波に近い関数のパラメータとなっています。そのため,第2+β波の今後の推移は第2波を見ると推察できます。第2波はほぼ収束状態にあり,現在は小さな第2+β波の寄与が多くを占めています。これらの和としても減少傾向なのでほどなく収束すると見込まれます。"第2+β波"の発生により,全体としての第2波は2-3週間は収束が遅れることになります。
茨城県の第2波は,感染者数が多い他の都府県よりも発生がやや遅く,ピークも数日遅めですが,基本再生産数が少し大きいので収束が早く,このままの経過が続けば10月の上旬には収束と見なせる状況(全県での1日当たりの平均の感染者数が1人未満)になるでしょう。なお,現時点でも,他者を感染させるような感染者の数(目安として,日別感染者数を実効再生産数で除した数)は100万人あたりで1人に満たない,極めて少ない数のはずです。
ところで,茨城県の交通事故の昨年度の統計(警察が把握している件数など)によると,事故の発生件数は7,447,負傷者数は9,368人,死亡者数は107人です。これまでの新型コロナ感染症の感染者は627人,死亡者数は16人です。ほかの疾患はもちろん,交通事故に合わない(起こさない)ようにしましょう。
グラフの見方
感染確定日データの日別の感染者数の累計が,"累計obs"です。ただし,最新の値で割って,最大値が1となるようにした"累計obs'"をグラフにプロットしています。
累計obsに合致するようにロジスティック関数を最適化し,最適化した関数による計算値が"累計calc"です。この値を最新の累計obsで割った"累計obs'"と"累計calc'"をプロットしています。最新の"累計obs'"は1です。
"日別obs"は,日別の感染者数です。最適化した関数から計算される日別の感染者数が"日別calc"です。
最適化した関数から計算される内的自然増加率 r から計算される実効再生産数が,"τ×増加率"です。ここでの τ
(tau) は,感染者が感染させてしまう平均日数で,値は7を採用しています。初期の頃の"τ×増加率"に1を加えた数が基本再生産数に対応すると考えられ,東京都の第1波では2,第2波では1.55程度です。
日別の感染者数から見積もることができる"τ×増加率"に相当する値について,素のデータが曜日ごとのばらつきが大きいため,7日間の移動平均をとった値が"τ×平均"です。第1波について"τ×平均1",第2波について"τ×平均2"としています。最新の3日間では7日間移動平均が適用できませんが,動向を把握するために,最新日は実際の値そのもの,前日では3日間の,前々日では5日間の移動平均を採用しています。そのため,最新日と前日の値の変動の幅は大きくなっています。
これら"τ×平均"は関数モデルが妥当ならば,"τ×増加率"に次第に合致するはずです。"τ×平均1"は第1波の"τ×増加率"によく沿っていて,"τ×平均2"は変化しながらも第2波の"τ×増加率"に追随しています。
"累計calc'","日別calc"と"τ×増加率"は日付を指定すれば計算できるので,数日後の値もプロットしています。
日別感染者数がピークに達するとき,"日別calc"と"τ×増加率"は変曲点に来ます。変曲点に来ると"τ×増加率"が初めのころの値の1/2となります。"τ×増加率"と"τ×平均"が次第に小さくなって,半分となる時期が感染のピークです。このときの累計感染者数を2倍すると,最大値になります。
"日別calc"はピークを挟んでグラフでは左右対称となります(偶関数です)。ピークの前と後では日別感染者数,および,その累計値(こちらは奇関数)はほとんど同じ値になります。