2020/05/08

再生産数とは

新型コロナ感染症を抑えるためには  再生産数とは

2020413

人との接触を80%に減少させることの意味


1つの個体(感染者)が,R0個の個体を生み出す(人に感染させる)とき,R0を基本再生産数という。
Basic Reproduction Number
図1 基本再生産数R03の場合には,1人の感染者が3人の新たな感染者を生み出す。

このような考え方は,人口の将来問題について採用されている。1人の女性が,平均して生涯に1人の女性を産めば,基本再生産数は1です。生まれた子供の2人に1人が女性なので,基本再生産数を2.08倍した値を合計出生率(合計特殊出生率)として,この値が問題になる。日本の2018年の合計特殊出生率は1.42である。このときの基本再生産数は0.71となる。この数値は,15歳から49歳までの1人の出産適齢女性について,一生の間に何人の子を産むかを表している。
 
基本再生産数が1より大きければ,大きいほど感染者数(人口)は増大し,1より小さければ小さいほど減少する。もちろん,1ならば,数は一定レベルに落ち着く。
 
合計特殊出生率が1.42ならば,1世代ごとに出生人口は0.71倍となり,2世代目では0.50倍となり,人口は著しく減少する。ちなみに,2019年の韓国の出生率は0.92といわれ,1世代ごとに出生人口は0.46倍,2世代目では,なんと0.21倍まで低下する。
 
感染症の場合,基本再生産数R0は,1感染個体(感染者)により直接生み出される感染個体数の平均と考えられる。感染を引き起こす病原体の感染力(b),単位期間あたりの接触の頻度(s),感染を惹起する期間(t)の積で表される。すなわち, 
                R0 = 感染力)×(接触頻度)×(惹起期間 = b s t                1)
基本再生産数R0は,新型コロナウィルス(2019-nCoVまたはSARS-CoV-2 virus)について1.4-5.7,新型インフルエンザ(pandemic H1N1/09 virus)について1.4-1.6の値が報告されている。

病原体への感染は,非感染集団の環境,免疫の有無,社会の防御の仕方(マスクなど)などによって変化し,これらの影響を加味した実効的な値として,実効再生産数Rの方が現実的な指標といえる。管理措置がない場合,R = c R0 c は感受人口の割合など環境の因子)となる。例えば,新型コロナウィルス(2019-nCoVまたはSARS-CoV-2)の実効再生産数Rとし2.93月の東京都では1.7などの値が報告されいる。

今回の政府の説明では,再生産数を2.5としている。外国では,3から6の値も報告されいる。これらをもとに,式1) に従って,接触頻度sと再生産数R' の関係をみてみよう。


管理措置がない場合の再生産数R

1.7
2.5
3.0
4.0

対策によって期待される再生産数R'
接触を40%に(60%減少)
0.68
1.0
1.2
1.6
接触を30%に(70%減少)
0.51
0.75
0.90
1.2
接触を20%に(80%減少)
0.34
0.50
0.60
0.80

 
例えば,再生産数R2.5のとき,接触を80%減少させて20%に下げた場合には再生産数R' 0.5と小さくなる。薄緑で網掛けした領域では,再生産数R' 1より小さくなるので,感染は減少・収束に向かうことが解る。しかし,接触の80%減少の政策スローガンは,過度の減少を目指しているのではないかと,とくに再生産数がより小さい場合には,ことさらこの疑問が残る。もしも,再生産数が5程度ならば,接触の80%減少では不十分なのではないかとの危惧も残る。
 

よって,現実の再生産数の見積もりに応じて,接触減少の度合いは柔軟に見積り,政策指針を改定していかねばならない。何が何でも80%減少の達成を目指す風潮を目にして,採用するモデル,政策目標,社会的なスローガンの固着ぶりが気になる。
ところで,再生産数とは,感染者(出産する女性)に関する数値であり,せいぜいそれらを含む集団に関する指標であることを思い出そう。感染者とその周囲の集団は,現時点では国民の0.01%に過ぎない。接触の減少を99.99%の国民に求めることは,本来は無意味のことである。感染者が特定できないので,国民すべてに接触の減少を要請し,感染者の集団へもその効果が及ぶことをを期待しているのである。感染者の集団が,要請を満たすように行動しなければ,政策は破たんするであろうとの危惧が残る(先日の朝日新聞の記事でもこれら諸点の危惧を指摘していた)。
このことは,出生率の増大のために,子供,老人,男性までにも協力を要請していることに等しい。ただし,女性が出産する環境をよりよくするという意味では,人口政策上は大いに意味がある。
同じような例として,"幸福の手紙"(チェーン・メール: 手紙を受け取った人がある数の手紙を出すように仕向ける)を考えると,このような手紙を控えるように要請する対象は,手紙を差し出すような集団に向けるべきで,国民すべてに要請することは対策としては全く意味を成さない(意識の向上には役立つだろう)。

PCR検査の簡便化と迅速化

さて,1) 式を見直してみよう。再生産数は,接触頻度のみならず,感染を惹起する惹起期間にも直接的に比例する。感染者を直ちに検出して隔離すれば,惹起期間は0となり,再生産数は0となる。現状では,感染したかもしれない時期からPCR検査の結果が出るまでに710日も要している。この期間を半分にすれば生産数は1/2に,かかったかなという時期に検査して翌日に検査結果が出ると再生産数は1/4程度に小さくできる。しかし,このような方策は全く進展していない。
 
惹起期間の短縮は,接触の減少とは異なり,感染者とその集団を対象とするので,生産数を直接的に減少できる。しかも,早期の検査の確定はその後の医療措置を激的に改善することになり,頻発する院内感染やクラスターの増大を防ぐこともできよう。PCR検査が陽性と判明したときには、感染者が亡くなっていることがある現状は悲しすぎ,憤りさえ感じる。
 
感染の診断検査(PCRはその一つ)の簡便迅速化は,接触頻度にして0.2程度を達成することはさして困難なことではない。中国と韓国は既にPCR検査の迅速化で,日本の1か月前に感染の封じ込めに成功している(現状ではそのように見える)。欧米でも、既に日本の100倍ほどのレベルで検査を実施している。幸い現在の日本の人口当たりの感染者数は,欧米の流行地域の100分の1程度と極めて少ない。したがって,必要とされる検査可能な数も相応に少ないので,実行できない訳は全くない。
惹起期間の短縮と接触の減少化を行えば,より有効な対策となり,現在のように大幅に接触を減らす必要がなくなる。当然,社会と経済に及ぼすメリットは計り知れない。経費がかかるアベノマスクの資金を投入すれば,迅速検査は実現できるはずであり,経済の保障に要する数10兆円規模の予算も大幅に減ずることが可能であろう。
行政は,国民に要請するだけの姿勢ではなく,本来は行政が行うべき医療検査の早急な実現,医療体制への補助サポート,国民の健康と円滑な生活の営みの実現にいっそう力を注ぐべきであろう。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿