COVID-19 東京都の感染者数プロファイルの解析 [8月7日, 2021年]
Profile analyses of COVID-19 affected numbers in Tokyo [August 7th, 2021]
東京都が発表した確定日別の感染者数を用いて,感染者数のプロファイルを解析しました。2021年8月7日のデータによると,感染者数のピークはかなり早まって8月2日(報道発表の速報データの日付では3日)と得られました。実際に感染が最大となったのは7月26日頃となります。
前回のブログ(7月10日更新)の"東京都の感染者数プロファイルの解析"では,新たなプロファイル"第5波"を導入していました。東京都の感染者数のプロファイルを見ると,7月11日頃を境に,第5波の傾向に変化が見られ,増加傾向が著しくなりました。そこで,第5波が2つのロジステック関数のプロファイルとして,前回のプロファイルを5Aとし,さらに,5Bを追加して,累積の感染者数に対して関数のパラメータを最適化しました(先立つ第3波と第4波のパラメータも同時に最適化しています)。最適化の方法は従来の解析と同じです
ただし,7月22日から25日までの4連休の感染者数は少なく報告されることから,通常の日曜日の感染者数の比率(計算値に対する報告数の割合)に近くなるとまず仮定して解析を進め,その比率の挙動に注意しながら,次第に比率を更新された比率に置き換えました。この操作は報告数を計算値に対応させたことに等しいので残差が0に近くなります。これは,最小二乗法にこれら日々の値を含めない(あるいは重みをほぼ0にする)ことに相当します。この操作の後に,減少分を後日の増加分で補填する処理を行いました。その他の日々については,曜日ごとの過去の比率データで補正して曜日による変動を低減しています。これら操作により,ある期間の累計感染者数は実際の累計数とは乖離させないという条件を付しています(前回のブログにて説明しました)。なお,連休前の7月18日の時点での解析を図3として後方に挙げてあります。
図1は,日別の感染者数(日別obs),その7日間移動平均値(日別ave),本ブログの解析による日別の感染者数の計算値(日別calc),そして"再生産率"を挙げます。"再生産率"は"実効再生産数"に相当する値で,1よりも大きければ大きいほど感染は拡大し,1でピーク(増加時。減少時には底の値),1よりも小さければ小さいほど減少・収束に向かう傾向が大きくなります。
第4波のプロファイルは,5月3日が変曲点(ほぼピークに相当)で,基本再生産数相当値(R0)は1.49,環境収容力(期間全体の累計感染者数)はおよそ46,000名です。これらのパラメータ値はこれまでのブログからは変化がほとんどありません。本ブログの日付は確定日ベースで,報道発表データ(当日分の数は1%程度,前日分が約80%,残りがその前の日付の分です)よりは概ね1日早くなります(報道発表の日付は1日を加える)。なお,実効再生産数は感染が生じた日が基準なので,"再生産率"を実効再生産数に対応させる際は,日付から7日を差し引いてグラフをご覧ください。
第4波プロファイルから乖離する感染者数の増加分が5月17日頃に現れだしました。6月12日の時点の解析では,増加分を反映する新たなプロファイルを第4波Bとして,その増加の傾向を指摘しました。6月26日の解析では,このプロファイルを"第5波"として,その特長を調べました。今回のプログでは第5波Aとしているこのプロファイルは,7月20日頃に変曲点(ピーク)に達しました。プロファイルの環境収容力(全期間の感染者数)は第4波のプロファイルよりは少し数が大きくなっています。
再生産率は,日別の感染者数が最小となった6月11日から1を上回りはじめ,第5波となりました。6月30日には再生産率は1.28まで増加し,ほぼ横ばいとなりました。これはプロファイル5Aが寄与したもので,"アルファ型"(イギリス型)の感染プロファイルを反映していると考えられます。
その後,7月11日頃から急激な増加を見せ始め,24日には1.73まで大きくなりました。これは1週間でおよそ1.7倍の日感染者を生ずる大きな値です。この様子を反映してるのがプロファイル5Bで,"デルタ型"(インド型)の感染力の強さと,出現の割合を示唆しています。その後は減少に転じ,8月2日には1を切ってピークを迎えたました。その後も,大きな感染者数が続いていますが,やがて急速な減少傾向に入るものと考えられます。この減少傾向は8月15日頃までは著しく,その後はやはり減少傾向にあるプロファイル5Aが効いてきて,やや緩やかな減少へと推移します。
第5波はまだ進行中なので,プロファイルの現在の値は暫定的です。とくに変曲点からの日数の経過はまだわずか4日で,しかも直前に4連休があったこと,5Aと5Bの2つプロファイルが近接して重なっているので,確度はまだ高くはありません(変曲点を過ぎておおむね1週間を過ぎると確度は高くなります)。
プロファイル5Aは,変曲点が7月20日,基本再生産数相当値(R0)は第4波よりも少し大きい1.54,環境収容力がおよそ49,700名です。5Bは,変曲点が5Aから13日遅い8月2日,基本再生産数相当値(R0)は2.60,環境収容力がおよそ58,000名です。5Aの最大の日感染者数は約900名,5Bは約3,300名です。これらが重なった8月2日には約4,020名の最大の計算値となっています。確定日データでは8月3日の値が約4,780名と見積もられ(公表値は暫定的で,まだ確定していません),曜日補正を施した解析での値の約4,730名とよく対応します。なお,報道された8月4日の速報データでは4,166名で,曜日を考慮すると約4,050名になりますので,解析との差は0.7%と僅かです。
第5波のプロファイルの合計の累計感染者数(環境収容力)は約104,600名となり,第4波のプロファイルよりもはるかに大きい2.3倍です。
東京都は7月12日に緊急事態宣言を発出し,その効果が現れるのは2週間後の7月26日以降と考えられます。プロファイルを見ると,26日以降にプロファイルのプラト―の見え始めていいますが,効果が顕著に現れているようには見えません。なお,今回の解析では第5波のピークを現時点では8月2日としていますが,その後もやや大きな感染者数が報告されています。ピークが高い状態がしばらく続き,ピークも数日は遅くなるかもしれません。
先の解析では8月中旬にピークが現れると予想していましたが,このように早期に減少に転じた要因としては,デルタ株の大きな基本再生産数相当値(急速な増大は速やかな減少につながる=感染者者の集団の多数を感染させてしまって,非感染者を減ずる飽和現象の効果),人々の対応,ワクチン接種の進行による効果,などが考えられます。 今後の状況には,緊急事態宣言の効果(有意に効果があればですが)が,減少の傾向を加速させていくのではないでしょうか。
図2に東京都の感染者数プロファイル解析の詳細を示します。第3波のプロファイルC(日別感染者数はD f3C
calc),第4波のプロファイル(D f4
calc),第5波Aのプロファイル(D f5A
calc)と第5波B(D f5B calc),これまでのすべてのプロファイルを合成した計算値(日別calc)を示しています。感染者数の累計値(累計obs')に計算値を最適化した結果(累計calc')も図に示してあります(最新の累計感染者数で除して最大値が1.6となるように規格化した値です)。
第5波AとBについての"τ×平均"と"τ×増加率"の2つの指標もプロットしてあります。"τ×増加率"は内的自然増加率の理論的な変化を表し,実際のデータからの"τ×平均"が,最適化で得られるτ×増加率をよく追随していれば,解析モデルと実際のデータの一致が良好であることを意味します。既に終息の状態にある第4波プロファイルはこれらの合致が良好で,感染の形態(変異株の構成が単一,など)が対象の期間にわたって一様であることを示唆していました。図の第5波AとBについては,"τ×平均"と"τ×増加率"の値が初期の半分を過ぎる時点が変曲点なので,すでにピークを過ぎています。なお7月18日から26日頃のこれら両者の指標の一致度がやや悪く(連休の影響を避けるため重みを小さくしています),その後はその以前の延長に沿っているので,現在のパラメータは妥当と考えています。
解析では,できるだけ少ない数のロジスティック関数を用いて,関数の和として累積の感染者数へ最適化しています。用いているデータは暦日(日付,曜日,休日)についての過去の累積感染者数のみです。 したがって,予測ではありません。新たなプロファイルが現れた時には,過去のプロファイルからの乖離としてその出現を検知できます。プロファイルの確度は出現の初期には低く,おおむね変曲点を1週間を過ぎると信頼に値する確度になります。もちろん,新たな出現とその性状は見通すことはできません。また,結果も報告(公表)されるデータの性質と正確さに依存しています。結果の解釈は,結果を観る観点にも大いに依存していますので,ご留意ください。
図の見方は,"COVID-19 感染者数プロファイルの計算モデルと見方"をご参考ください。