2021/02/07

COVID-19 東京都の感染者数プロファイルの解析 [2021年2月7日]

COVID-19 東京都の感染者数プロファイルの解析 [2021年2月7日]

Profile analyses of COVID-19 affected numbers in Tokyo [Feb. 7th, 2021]

 
東京都が本日2021年2月7日に報道発表した感染者数は429名でした。累計の感染者数は2月1日に10万名を越え,本日は103,845名となりました。感染者数は,最大数が1月7日の2,447名で,29日以降は1,000名未満となり,確実に減少しています。感染の診断が確定された日の"確定日"ベースでは,感染者数は漸次に修正・更新されていきますが,6日の2,548名が現時点での最大数です。1千名以上となった最後は1月26日でした。感染者数のプロファイルの解析を本日の確定日データで更新し,以下に述べます。
 
第3波についての環境収容力(プロファイルの全期間の感染者数)の合計は約76,000名となり,東京都の感染者数では,第3波が3/4を占めるに至りました。致死率は低下傾向にありましたが,1月22日頃の0.84の最小値を底に,0.98まで上昇しました。また,感染の様式が,施設などからのクラスター感染(Clusters of cases)から,感染経路が特定できないケースが増えた市中感染(Community transmission)に変化したことが,自治体別の感染者数からも示唆されます(後述)。

前回のブログ(1月30日更新)の"東京都の感染者数プロファイルの解析"では,第3波の2つのプロファイルAとBのうち,後の方のプロファイルBが第3波の大部分を占め,変曲点(日別の感染者のピーク)は1月10日で,速やかな減少を続けていること,しかし,僅かに幅が広くなってきたこと指摘しました。本日までのデータでは,幅が広がる,すなわち減少のペースが低下する傾向がより強まっています。
 
確定日ベースの感染者数を用いて,これまでと同じ方法によってロジスティック関数の最適化を行ない,感染者数のプロファイルを解析しました。なお,以下の日付は確定日ベースで,報道発表データよりは概ね1日早くなります(1日差し引く)。なお,実効再生産数は感染が生じた日が基準なので,"再生産率"を対応させる際は日付を7日程度差し引いてグラフをご覧ください。
 
図1は,日別の感染者数(日別obs),その7日間移動平均値(日別ave),本ブログの解析による日別の感染者数の計算値(日別calc),そして"再生産率"を挙げます。"第3波"としてはプロファイルAとBの和として日別の感染者数の計算値をプロットしてあります。黒い破線の"第3波1/23"は,1月24日時点の解析による第3波の計算値です。
 
"再生産率"は"実効再生産数"に相当する値で,1よりも大きければ大きいほど感染は拡大し,1でピーク,1よりも小さければ小さいほど収束に向かう傾向が大きくなります。再生産率は,日別の感染者数のピークにあたる変曲点の1月10日に1を切ってから順調に低下し続け,現在は0.31まで低下しています。
 
第3波のプロファイルAは,基本再生産数相当値(R0)が1.6,環境収容力(全期間の感染者数)が約19,400名,変曲点が11月26日となりましたプロファイルBは,R0が1.76,環境収容力は約57,200名,変曲点は1月10日です。です。前回のブログよりも基本再生産数相当値が小さくなりました (時間・空間的に広がった)。
 
本日の第3波プロファイルは,1月24日頃からは"第3波1/23"よりも広がり,減少のペースが緩やかになっています。AとBの環境収容力の和は76,550名となり,第3波1/23の和の73,130名よりも,3,420名だけ増えました。現在の和のうち,本日までに感染者数として出現したのは73,630名で,今後も現在のプロファイルが継続した場合に見込まれる感染者数は2,920名となります。なお,これまでの解析の実績からは,変曲点を3週間程度経過後の環境収容力の確からしさ,およそ1%なので,これら数値は確度が高いものです。
 
1. 東京都が2月7日発表の確定日別データ(2月6日まで)に基づく [図をクリックすると拡大]

実際の感染のピークは2日ないし3日となり,6日からの大きな感染者数が報道される前,緊急事態宣言の発出の8日のもっと前です。発症のピークが4日という東京都のエピデータともよく対応します。プロファイルは23日頃までは,日別aveともよく合致し,また解析の詳細を表す図2の平均も増加率の追随性が良好です。解析によるプロファイルはほぼ1月半の期間から得られているので,このような合致は,23日頃までは緊急事態宣言の発出の影響がほぼ無いこと,それまでの感染への対応が継続していたことを意味します。この時点までの感染者数の減少は,年初の多数の感染者によって都民にブレーキが働いたのではなく,それ以前の対応の結果であると理解できます。
 
1月24日以降は,第3波1/23よりも現プロファイルが上方にあり,実際の感染者数と日別aveが現プロファイルよりも上方にあります。これは減少の傾向が減速していることを示します。24日以降は緊急事態宣言の効果が現れてきているはずで,そうならば減少の傾向が強まるはずですが,解析の結果はその逆の結果を示しています。ただし,このことは緊急事態宣言の効果が無い(あるいは逆の効果をもたらした)ことを意味しているのではありません。緊急事態宣言が無かった場合の事例データは存在せず,比較できないからです。もしも緊急事態宣言が無かったら,感染数がもっと増えていたかもしれないのです。
 
緊急事態宣言が発出された埼玉県,千葉県と神奈川県の場合には,1月下旬にはプロファイルに減少傾向の加速が見られます。このような加速の傾向は通常は見られないことから,宣言の効果があったと考えることができます。ただ,これら3県の変曲点が東京都よりも遅く,効果が現れやすい時期であった可能性があります。緊急事態宣言がどれほどあるのかは,その社会・経済に与える影響は甚大で,効果の検証には綿密な分析が必要ですが,効果の検証は極めて重要です。しかるに,緊急事態宣言が発出された4月から5月の効果の検証が充分になされたとは言えず,残念です。財政,政策など政治・行政の効果検証をしっかりと行うことが我国の課題(マスコミ,専門家などの責務)なのではないでしょうか。

図2. 東京都の感染者数プロファイルの最適化の詳細: 2月7日付 [クリックで拡大]

第2波の"主要"なプロファイル(日別感染者数はD f2 calc),第3波のプロファイルA(D f3A calc)とプロファイルB(D f3B calc),これらすべてをを合成した計算値(日別calc)を図1と図2に示しています。"第3波"はAとBの和です。感染者数の累計値(累計obs')に計算値を最適化した結果(累計calc')は図2に示してあります(最新の累計感染者数で除して最大値が1となるように規格化した値です)。

第3波の2つの近接するプロファイルのパラメータは,連続的な累計感染者数から求めた便宜的なもので,和としてのプロファイル(図1と2の"第3波")の方が意味のあるものです。東京都,周辺の埼玉県,千葉県と神奈川県の場合は同じようなプロファイルで,感染者数が増加の傾向が続き,ピークにはまだ到達していません。

図2に東京都の感染者数プロファイルの詳細を示します(2月16日まで)。第3波についての"τ×平均"と"τ×増加率"は第3波Bに関するものです。τ×平均は実質的な増加率であり,年初には大きく減少していますが,その後は12日頃までは増加しています。この増加分を年初の減少分に移動すると,最適化で得られるτ×増加率の追随性を著しく改善します。年初の大きな減少がその後の増加で相殺されていること,23日頃までは両方の指標が合致することから,これら期間の実際の感染者数はプロファイルの範疇にあることを証明しています。なお,24日以降はτ×平均がτ×増加率よりも僅かに大きくなっており,また累計obs'よりも累計calc'よりもやはり多めになっています。これは図1で見られた感染者数の減少が減速傾向であることに対応しています。

図の見方は,"COVID-19 感染者数プロファイルの計算モデルと見方"をご参考ください。

自治体別感染者数: 東京都の感染者数を自治体ごとに,人口10万人当たりの1週間または5日間の新規感染者数で比べ,図3と図4に示します。2021年1月19日からは,自治体ごとの相対的な偏差は小さくなり,感染リスクはどこでも同じようです。 第3波では,夜の街・飲食店が多そうな区が感染の大部分を占めていました。

図3. 東京都の2021年1月中旬の自治体(区部と市部)ごとの感染者数

図4. 第3波での自治体ごとの感染者数

特別区部と市部を,人口10万人当たりの1週間の新規感染者数で比べてみたのが図5です。 第2波の7月には区部が市部の約7倍,第2波で約3倍,11月23日以降は2倍を下回りました。 1月18日以降は1.36倍まで低下し,自治体間の差が縮小(市中感染に変化)しています。様々な解釈があり得ますが,たとえば飲食店等の感染が区部では減少した結果が反映されているなどです。なお,この時期には65歳以上の感染者が占める割合も増加していました。

図5. 特別区部と市部の感染者数とその比率の変化


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